ある意味、僕達はだまされていたのかもしれない。当初は「乗っても乗らなくてもいいから」と言われていたのである。それが突然あんな事になろうとは、誰も予想していなかったに違いない。それは突然勉強会の最中に起こった。僕は大学の研究室で’00年度からグライダーに関する研究をすることになり、でも全くグライダーや航空力学に関する知識は乏しく、教授とそれらに関する勉強会を開いていたのだ。その中でグライダーの各部分についての質問を同じ班の後輩のT君と僕とでしていたら、教授がボソッと「実物を見てみた方がいいかもしれないな」とおっしゃったのである。そして3月26日に埼玉は妻沼のグライダー滑空場に行くことになったのである。僕とT君は「まさか乗せられたりして」とか言って笑っていた。
そして行く前々日、メールが届いた。グライダー部に所属する研究室で同じ班のN君から「乗るには3000円程かかります」と。え!っていうか乗る事になってるの?!乗るの!?マジで!?で、次の日教授に聞いてみたところ冒頭のお言葉である。「乗っても乗らなくても良いよ。お金のことならだいじょうぶ。大学内の人は4分の1の値段で乗れるから」って、だからお金のことじゃなくてばさぁ。なんかヤバイ雰囲気になってきたとこの時かすかに思い始めたが、まだT君と「えっ、乗っちゃう〜?ははは」と余裕であった。
 乗りこむ事になった2人乗りグライダー |
当日、天気は良く風もそんなに強くなくてなかなかのグライダー日和?である。熊谷駅でT君と落ち合い、だいたい時間通りに滑空場に到着した。初めて見る滑空場はとにかく広い!滑走路は1.5Kmもあるらしい。ここからは見えないくらい遠くにウインチがあり、それでグライダーを一気に引っ張り上昇させる仕組みになっている。先に到着していた教授に挨拶に行くとグライダー部の監督さんを紹介してくれた。そうすると挨拶もそこそこにいきなり「前に乗ります?それとも後?」と聞いてくる。教授が間髪入れずに「前でいいでしょ」と。え、え、え、え、え???マジで??なんか乗る事になってる・・・。気持ちの整理もつかないまま、グライダー部の人に乗り方の説明を受ける。操縦桿の使い方やその機能、パネルについてるメーターの意味なども教えてくれた。そして飛び立つまでしばらく待つ事になった。もう、わけわからん。飛ぶっきゃない。飛ぶさ、飛べばいいんでしょ。もう、やけくそじゃい!しばし、飛んでいくグライダー、着陸してくるグライダーを眺める。それにしてもエグイ角度で上昇していく。例えるなら正月に上げる凧のような、そんな感じで一気に上がっていくのだ。しかも凄い速さで。あのGフォースに耐えられるのだろうか。上空で泡吹いて気絶とかはカッコ悪いな、などと考える。と、だんだん風が強くなってきた。激しく揺れながら、素人目には墜落するんじゃないかと思うような感じで着陸してくるグライダーを見て心配になる。絶体絶命か?!
強風の中待っていると、僕達が乗る予定であるグライダーが滑走路へと移動されていく。いよいよか、と思い緊張する。と、後から教授がニコヤカに歩いてきて「ちょっと行ってくるから」と言い、そのグライダーに乗りこんでいった。なんでい、フェイントかよ。そして飛び出していったのだが、なかなか帰ってこない。しかも僕達の視界からは消えている。後で知ったのだが、どうやらいい具合の上昇気流に乗り、かなり上空に行っていたらしい。しかし帰ってこない。風もいよいよ強くなってきて立ってるだけで吹き飛ばされそうだ。寒くなってきたので車に非難して教授を待った。
 こんな感じで乗る。後ろが操縦者。前でも操縦できるが、もちろんしない |
 ワイヤーに引っ張られエグい角度で上がってく |
30分程経って、やっと帰ってきた。グライダーを降りると同時に僕を手招きする教授。うぉ〜!ついに来た!!ついに僕が乗りこむ時が来たのである。心臓がバクバクと高鳴る。不整脈な心臓をかまっている余裕など無かった。さっき教えてもらった通りにコックピットの枠に両手とお尻を置き、右足から順に乗り込んで行く。既に手足は震えていた。4点式シートベルトでがっちりと身体を固定され、いよいよ出発の時が来た。っていうか、僕は高所恐怖症なのだ。しかもジェットコースターもまったくダメなのだ。そんな僕がまさにその両方を兼ね備える乗り物に今まさに乗りこんで飛び出そうとしているのだ。遂に離陸の瞬間!目の前に見えるヘビのようにうねったワイヤーが突然ピンと張った。そして僕の乗ったグライダーがだんだんと引っ張られていく。と思ったら突然凄いスピードでドゥワーーっと引っ張られて、そしてグワーっと上昇していく。目の前は青い空しか見えず、身体は激しいGフォースでつぶされそうだ。ある程度の高さまで行くとグライダーにつながれたワイヤーが切り離された。フワァ〜っと更に上昇していく。ヴ〜気持ち悪りぃ〜。上空400m付近まで来ると機体は安定した。後ろで操縦してくれているグライダー部の監督さんがいろいろと説明してくれる。「前方に見えるのが赤城山で・・」遠くにまだ雪の残る高い山が見える。すごくキレイだ。機体が傾き、旋回が始まる。横向きのGとなんだか振り落とされるんじゃないかと思うくらいの傾き方で気持ち悪い。「左に見えるのが熊谷市街で・・」街が一望できる。家々がおもちゃの様に小さく見える。と、突然フワァ〜と一瞬落っこちる感じ。ギュッとシートベルトを掴む。下降気流の中に入るとそうなるらしい。ヴ〜気持ち悪りぃ〜。今度はフワァ〜っと一瞬浮く感じ。上昇気流を捕らえたようだ。監督さんが「もっと上の方まで行って見る?」と聞くので僕は「い、い、いや、いいです」と答えた。そのまま旋回を続け、そして着陸体制に入った。着陸時は下からのGがすごくて、これまた気持ち悪い。だんだん地面が近づいて来てズザザザザァ〜と無事着地したのだった。無事生還!!おそらく7分間程のフライトであった。操縦してくれた監督さんにお礼を言い、シートベルトを外してもらって、ゆっくりと、ちょっとだけ放心状態で機体から降りた。まったく凄かった。初の飛行体験がグライダーっていう人もなかなかいないであろう。良い経験をしたものだ。また機会があれば乗ってみたい。
 無事着陸の直後。しばらく放心状態 |